恐らく僕はここで死ぬのだろう。右腕と左足がなくなったぐらいで生き延びている人間の話しは数多く聞くが、僕がこの後受ける最大の攻撃によって全てが覆されるのである。
身体はもう、痛いのか居たくないのかすら分からない。ただ、時折ぐらぐらと響くものが腹の中からのぼってきて、踏みつぶされる雄牛のような低い呻きが口から漏れるだけだ。これが意志とも感覚とも無関係で、もはやそこに僕はいない。僕の抜け殻、だけどそこに共にいるのも、また、僕。
とまあそんなことはどうでもいいのかもしれない、足音が近づいてくるのだ。割れた硝子の上をぱきりぱきりと踏みしめながら歩く、華奢な足音。だからこそ心臓と耳の感覚だけは鮮明で、一歩近づくたびに洗礼を受けるような気持ちになる。
世界に感じていたいつかの憤りなど、今はまったくといって良いほどに感じられない。空虚で行き場のなかった感情などぽっかりとしていて、今はただ泣き出したい気持ちでいっぱいだ。その涙の意味すら、分からないとしても。
「…ごめん、」
呻き声に混じって聞こえるのは僕の声なのだろう、僕はもう忘れてしまったけれど、君は覚えていたら嬉しい。
「ごめん、ごめんごめんごめんごめんごめん」
「謝らないで、いいよ」
血のにおいが、する。鉄のにおいも煙のにおいも、死んだ残響も感じ取れる。僕の五感はまだまだ働いてしまっている。それを全て、君を見ることにかける。
「ごめん、ごめん、ごめんな」
「いいんだよ、仕方ないもの、本当にもう、いいんだよ」
天使の微笑みなんてものは存在しないだろう、だけど悪魔の微笑みもない。
今ただ泣き出しそうな顔をして、愛想笑いとも心底の笑顔とも何とでもとれる、輪郭をなくした君の笑みを見つめたら、分かる。
例え今から自分を殺そうと手に武器を持つ人間の笑みですら、残酷に見えない世界の現実とやら。



星の光が痛い、月の光が痛い、胃袋の中身がこみあげて張り裂ける、友人の血のにおいのする武器に、僕の血も更に追加される。
死ぬのだろう、僕は死ぬ。愛し君の手で僕は死ぬ。返せ、返せ、ごめんなさいと言うから、返してほしいのだ。あの笑み、失われた残響にまじった悲鳴たち。あれは返してほしい、彼女への贖罪はからだを蝕んでいくのだと分かりながら僕は謝る。何が悪かったのか考える、僕らは何も悪くなかったと思う。そしてそれが何よりも悪だったのだと気づき、返してほしいと懇願し、彼女を見つめ、愛撫に似た銃声を待つ。







(今の僕には、理解出来ない)

ブログ投稿より。