時代は変われ度場所は違えども、男は夢を追う生き物なのだ、そう言って上の兄二人は家を出ていった。
長男のくせに家業である帽子屋を継がなかった一番上の兄はソロモンの秘宝を探す旅に行くとんうんとやらと言っていた。それに便乗したのかしないのか、二番目の兄は雪舟みたいな水墨画が描きたいとか言ってどこぞの人間に弟子入り。ちなみに三番目の兄の夢は帽子職人、だから必然的に家に残っている、それだけだ。
しかしそれら全ての夢が叶うのかと言われればまた絶妙。マリー・アントワネット嬢でも被らないような紫色の巨大な花のブーケつき(被ったら頭が重くて逆ブリッジしてしまうわ)の帽子を作る兄、洗って簡単に落ちる墨汁のセールスマンをしている兄、ドラクエにハマってフリーター兼ゲーマーになっている兄も、そうその全ての兄の姿もまた私が知っているという、事実。

そして私はというと、いつからかずっと同じ紺色の制服に身を包み、“コーコー”という名の学舎に日々通っている。そこは、チョークの粉で白ばんだ板に書きなぐられた記号を一心不乱に紙面上に写し取る行為を好む連中の集う、一風変わった場所だ。

そしていつも思っている。夢追いを切望するのは、けして男だけではないのだ。

私が今まで貯めに貯めたお金(ヘソクリ?そう俗に言うヘソクリですよ、ちょっと目玉飛び出るよ、コーコーセイの額としては)と旅行鞄を引っさげてある日突然退学届けを突き出すような存在になっている。


「私、海賊になるから!」

パイレーツオブカリビアン?ジャックスパロウ?
黒真珠号だろうがフジツボタコ星人だろうが何でも来いよ!! 「え、ちょっとユカ!」
「心配しないで母さん、退学届けは提出済みで受理済みだよ」
「ユカ、血迷うな!セールスマンやフリーター兼ゲーマーになりたいのかよ!?」
「兄さん、今時シルクハットに薔薇とイカはないね!」
「ユカーー!一人娘とバージンロードを歩く俺の夢は!?」
「兄さんによろしくね父さん!」
「俺!?」

止められない止まらないのですよ我が家族よ、愛しています!!今までありがとう、育ててくれてありがとう!!

「ユカー!!」


ワンピースよろしく、私は海に出るのよ。
海賊王に、俺…じゃねぇや私はなる!!






さぁ出発だぜ