ああ待ってください、私は貴方を好きなのです。詮ずるところその全てが好きなのです。私を抱きしめるその温かな腕も私を見てはにかむように笑うその表情も空を見上げる時の横顔も光のある瞳も全てが全て最高の愛の形。その抱擁は豪華絢爛の貴族の食事も敵わないのです、手にした者は全員心酔されてしまう、病みつきになってしまう、貴方なしでは生きられない身体へとなってしまうのです。これを成り下がりとは呼ばず、むしろ私は成り上がりと呼ぶのです。私はこん畜生駄目な人間であります、ごみの成り上がりが人間の形を形成しているようなもの、なのに。しかしながら少なくとも今の瞬間は貴方のその視線は私だけのものであって私のみに向けられているものであって私は世界中で一番素晴らしいものを独り占めにしているのです、そうとても長い間。これを幸せと呼ばず何と呼ぶのか、何を幸せと呼ぶのか。知っているのは。彼の果敢なるプロメテウスすらそれを知ることはないでしょう英知の象徴である科学者も物書きも知るよしはないでしょう、何故ならそんなものは存在しないからです。そして言い換えればこれは愛。私のような低俗な人間でもしかと持ち合わせてしまっている愛の全てを一生貴方に捧ぐ事を誓います。ですので、
「手を…離して頂けるととても嬉しいです」
「ハイお断りー」
「う……(横暴であります、ディオニシウス王と重なる…)」
「誰それ」
「(こ、心を読まれた!?)…メロスのとこの王様です」
「お前会ったことあんの」
「せ、先月本屋で出くわしまして…」
「…おっまえほんっとばかだなぁ」
その笑顔も私の愛する笑顔なのでありますが如何せん、今の彼の笑顔の裏には鎌を構えニヒルな笑みを浮かべてこちらを面白そうにみる、隙あらば私の魂を狩りとってしまうのではないかと疑心される死に神やら悪魔やらが跋扈しているのであります、神様でも誰でもいいからたすけて。
「神様なんていませーん、残念」
「(だから何でこの人は心が読めるのだ…!)……そ、え、とすすすすみませ…」
「謝ればすむってもんじゃねぇよ?第一お前のすみませんには謝罪の気持ちっつーかどっちかっつーと現状を脱却したい気持ちというか…俺を怖がってる気持ちしか感じ取れない」
「(ヒイイイイイ…!!)そそそそんな全ては私が悪いんですこの世に生まれてきただけで万歳すべき私があろう事か桐生くんに不快な思いをさせるなどと言語道断…!!身の程しらずな私の罪を許してくださいー!謝りますずっと太陽が沈んでもずっと謝りますセリヌンティウスごめんなさいー!!」
「だから何でメロスなんだよ」
ああごめんなさいその呆れて頭に手をやってがしがしして横向いてため息をつくその仕草にまで反応してしまう私の心臓をお許し下さい、ああ涙で前がみえねー!!!
「……ま、誠意は分かった。」
「ほんとですか!!!!わーい!!!!!」
「けど許しはしない」
「えー!!!!!」
「でも仕方ねぇや、俺たちは離れちゃいけないから、ほら」
「……っうわぁぁぁ桐生くん大好きー!!!!!!!」
「よく知ってます」
繋いでくれる骨張った大きな手も私は愛してるんですつまり全部好きなんですよね好き好き好きですもの凄く好き、言葉じゃ在り内ぐらい愛してるんですねこれがね。
「知ってるって」
「うへぇ!!(だから何で心が読めるのでしょう…!)」
「お前とはレベルが違うんだろーなー。まぁ許してしいないからとりあえず俺の靴舐めとけ」
「わーん!!わかりましたー!」
「ほんとにやんなこの馬鹿!!家でやれ!!」
(家ではやらせるんだ………!)
味つき磁石の恋愛
(悪いのはお前だからね、痴漢にあっても何も言わなかったお前が世界で一番悪い)
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