迎えに来たんだ。もう何も恐れなくていい。

涙を飲むみたいに、ひとことひとこと丁寧に言葉にして、哉崎は私に手を差し出した。壊れかけのラジオは笑う。私は酷く高慢に息をする、哉崎はそれを怒らない優しさを持っている。それゆえ、哉崎は不幸だ。その右耳の聴力を奪った悪夢の迫害もけして憎まない。ただ私を傷つけたからという理由で彼らを殺してしまったけれど。
眼球のない私の左側、折れた右足、背中の火傷、剥がれた爪。
世界が理不尽で身勝手なのは今に始まったことじゃない。哉崎はそれを分かってる、補正しようなんてしていない。それでも私のために国を相手に人を殺す。
はしゃぎまわる子どもの声が遠く響くここは随分と寒い。緩やかな愛憎、愛しているよ神さま、殺してしまいたいほどに。
「待ってた」
「だからいこう」
「私」
「手を」
手の骨は生きている、奇跡、足は立たない。哉崎が支えてくれながらその細くも頼りがいのある肩に寄りかかり私は冷たい廊下を歩く。両側にある死体から、まだまだ死臭はかおらない。
きっとまだ死んだばかり。温かな死体。
「哉崎」
「なに」
「哉崎はなにを嫌っていますか」
「君を傷つけるものすべて、僕の形ない眼球がうつす限りのすべて」
「哉崎」
「君は、何をそんなに大切にしているの」

神さまは死んだ。月は食べ終えた。みんな殺されて私は生きる。哉崎、

「知っているよ」
「哉崎」
「君の憂鬱も」
「哉崎、ごめんなさい、ごめんなさい、目を、」
「ごめん」


愛してごめん。


絢爛たる拷問は終わった。私は哉崎を抱きしめる。